東京地方裁判所 昭和42年(レ)22号 判決 1967年10月26日
控訴人(原審参加人) 岡田とく
被控訴人(原審原告、同反訴被告) 田代重雄
右訴訟代理人弁護士 高橋秋一郎
被控訴人(原審被告、同反訴原告) 栗原正次
右訴訟代理人弁護士 田山勝久
主文
1 原判決中控訴人に関する部分を取消す。
2 控訴人の当事者参加の申出を却下する。
3 被控訴人田代、同栗原間の訴訟は被控訴人田代の控訴取下げによって終了した。
4 原審において参加申出によって生じた費用および当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
第一申立
一、控訴人
1 原判決を取消す。
2 控訴人が被控訴人田代所有の別紙第二目録記載の土地につき賃借権を有することを確認する。
3 被控訴人栗原は控訴人に対し別紙第二目録記載の土地をその地上に存する建物一、六五平方メートル(〇・五坪)を収去して明渡せ。
4 訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人らの負担とする。
との判決。
二、被控訴人田代
本件控訴を棄却するとの判決。
三、被控訴人栗原
本件控訴を棄却する。訴訟費用は控訴人の負担とするとの判決。
第二、主張
(一) 被控訴人田代の同栗原に対する本訴請求
一、請求原因
1 被控訴人田代は東京都品川区西品川三丁目八三八番の五、宅地二七三、五五平方メートル(八二坪七合五勺)を所有し、同栗原はこれに隣接する同所同番の六宅地一三二、七六平方メートル(四〇坪一合六勺)を所有している。
2 右両宅地の境界線は別紙第一図面記載の(イ)、(ニ)の各点を結ぶ直線であるところ、被控訴人田代は同栗原に対し昭和二四年三月ごろ右境界線に沿う被控訴人田代所有地の巾〇、六〇メートル(二尺)の部分を被控訴人栗原の所有地上に存する同人の居宅の便所汲取の通路としてのみ使用する約定で使用貸借として貸与した。
3 被控訴人栗原は右使用貸借地を超えて別紙第一目録(一)記載のとおり被控訴人田代所有地を占有し、右地上に同目録(二)記載の建物を所有している。
4 被控訴人田代は同栗原に対し昭和三六年七月一六日同人に到達した内容証明郵便をもって前記使用貸借契約を解除する旨の意思表示をなした。
5 よって被控訴人田代は同栗原に対し別紙第一目録(二)記載の建物を収去して同目録(一)記載の土地の明渡を求めると共に(前記(イ)、(ニ)を結ぶ境界線に沿う巾〇、六〇メートル(二尺)の部分については使用貸借終了に基づき、その余の部分については所有権に基づいて)、昭和三六年七月一七日以降右明渡ずみに至るまで一ヶ月金二一八円の割合による賃料相当損害金三、三〇平方メートル(一坪)金二五円の割合による二八、九二平方メートル(八坪七合五勺)分の支払を求める。
二、答弁
請求原因事実の中、被控訴人田代、同栗原がそれぞれ隣接地を所有していることおよび被控訴人田代主張のとおりの内容証明郵便が到達したことは認めるがその余の事実は否認する(答弁の詳細は反訴請求の原因記載のとおり)。
(二) 被控訴人栗原の同田代に対する反訴請求
一、請求原因
1 被控訴人栗原所有の東京都品川区西品川三丁目八三八番の六宅地一三二、七六平方メートル(四〇坪一合六勺)と被控訴人田代所有の同所同番の五、宅地二七三、五五平方メートル(八二坪七合五勺)とは境界を接している。
右両地の境界は別紙第二図面記載のとおり被控訴人田代所有地の北東隅に存するその隣地との境界石を基点(い)点とし、これより西北に一四、五〇メートル(七・九八間)の地点コンクリート塀跡を(ろ)点とし、(い)点より南西に一七、六八メートル(九・七三間)の地点を(A)点とし、(A)点より更に南西に〇、三〇メートル(一尺)の地点を(A)'点とし、他方(ろ)点より一七、六五メートル(九・七一間)の地点を(E)点とし、(E)点より更に南面に〇、三〇メートル(一尺)の地点を(E)'とし、右(A)'点と(E)'点を結ぶ直線である。
ところが被控訴人田代は右境界線を争うので被控訴人栗原は同田代に対し右両宅地の境界が右(A)'(E)'を結ぶ線であることの確認を求める。
2 被控訴人栗原は昭和二四年春ごろ同田代との間で被控訴人栗原が同田代から同人所有の前記八三八番の五宅地二七三、五五平方メートル(八二坪七合五勺)のうち別紙第二図面記載のとおり両地の境界に接する(A)、(E)(E)'(A)'(A)の各点を順次直線で結んだ部分の土地(長さ一四、二七メートル(七・八五間)、巾〇、三〇メートル(一尺))を賃料三、三平方メートル(一坪)につき一ヶ月金二〇円で期間の定めなく貸貸する旨の賃貸借契約を締結した。
ところが被控訴人田代は同栗原の右賃借権を争うので被控訴人栗原が右部分につき前記内容の賃借権を有することの確認を求める。
二、答弁
1 請求原因第一項の事実のうち、その主張のとおり被控訴人栗原の所有地と同田代の所有地が境界を接している事実は認めるがその境界線は本訴請求の原因記載のとおり別紙第一図面記載(イ)、(ニ)の点を結ぶ線である。
2 請求原因第二項の事実は否認する(詳細は本訴請求の原因記載のとおりである)。
(三) 控訴人(原審参加人)の被控訴人田代、同栗原に対する請求
一、請求原因
1 控訴人は被控訴人田代から、昭和三四年二月ごろ、同人所有の東京都品川区西品川三丁目八三八番の五、宅地二七三、五五平方メートル(八二坪七合五勺)のうち別紙第一目録(一)記載の土地が被控訴人栗原に侵害されているのでこれを取戻すのに協力してもらいたい旨の申出をうけ、その際被控訴人田代は控訴人に対し別紙第一目録(一)記載の土地を被控訴人田代が同栗原から取戻したときには右土地のうち別紙第二目録記載の土地を賃料一ヶ月三、三〇平方メートル(一坪)につき金二八円の割合で控訴人に賃貸する旨約した。
そこで控訴人は被控訴人田代の同栗原に対する訴の提起およびその訴訟進行につき協力したが被控訴人田代は控訴人との間の右賃貸借契約を争うので控訴人は被控訴人田代に対し控訴人が別紙第二目録記載の土地につき、前記内容の賃借権を有することの確認を求める。
2 被控訴人栗原は、別紙第二目録記載の土地上に建物一、六五平方メートル(〇、五坪)を建築所有して右土地を占有しているので控訴人は被控訴人栗原に対し土地賃借権に基づき右土地上に存する建物を収去して右土地の明渡を求める。
二、被控訴人田代の答弁
1 本案前の主張として控訴人は民事訴訟法第七一条にいわゆる第三者に該当しないので控訴人の当事者参加の申出は却下さるべきである。
2 本案の答弁として被控訴人田代の同栗原に対する訴につき控訴人の協力を得たことは認めるがその余の事実は否認する。
三、被控訴人栗原の答弁
1 本案前の主張として控訴人は本件係争土地につきなんらの権利をも有するものではないから、控訴人の当事者参加の申出は却下さるべきものである。
2 本案の答弁として請求原因事実のうち控訴人主張のとおり被控訴人栗原が建物を所有している事実は認めるがその余の事実は否認する。
第三、証拠≪省略≫
理由
一、先ず控訴人の参加申出の適否について判断する。
控訴人は別紙第二目録記載の土地につき賃借権を有すると主張して被控訴人田代の同栗原に対する右土地を含む別紙第一目録記載の土地についての所有権等に基づく土地明渡請求および右栗原の右田代に対する右土地についての境界確認等請求訴訟に当事者参加の申出をなし、右田代に対し別紙第二目録記載の土地についての賃借権の確認を求めると共に右栗原に対しては右賃借権に基づいて右土地の明渡を求めているものであるが、控訴人がその請求の原因において主張するところは「控訴人は被控訴人田代から同人所有の東京都品川区西品川三丁目八三八番の五宅地二七三・五五平方メートル(八二坪七合五勺)のうち別紙第一目録記載の土地を被控訴人田代が同栗原から取戻すにつき協力を求められ、その際被控訴人田代は右土地を右栗原から取戻したときは右土地のうち別紙第二目録記載の土地を控訴人に賃貸する旨約した。」というにある。
従って右主張自体から判断すれば控訴人は別紙第二目録記載の土地について被控訴人田代が同栗原から別紙第一目録記載の土地の返還を受けること(被控訴人田代が同栗原との間の本件訴訟に勝訴すること)を停止条件とする賃借権者ないしは被控訴人田代に対する賃貸借契約の予約者としての地位を有するにすぎない。
換言すれば、控訴人は被控訴人栗原に対して独立して請求をなし得る法律的地位を有するものではなく、控訴人の法律的地位はただ単に被控訴人田代が同栗原に対して勝訴し、その土地の返還を受けることに依存している関係にすぎず、控訴人、被控訴人田代および同栗原の三者間には合一的に確定せられるべきいわゆる三面紛争は存しないものである。
従って、被控訴人田代、同栗原間の訴訟が控訴人に対する関係でいわゆる詐害訴訟であるとの主張があれば格別、かかる主張のない本件においては控訴人は民事訴訟法の第七一条にいわゆる訴訟の結果によって権利を害せられる第三者に該当しないものというべく、又控訴人が同条にいわゆる訴訟の目的の一部が自己の権利であると主張する第三者に該当しないことは明らかであるから、控訴人の本件当事者参加の申出は不適法としてこれを却下すべくこれを認容した原判決は失当である。
二、次に民事訴訟法第七一条による参加の申出が要件を欠き不適法として却下されるべき場合においても右参加の申出が民事訴訟法第六四条の要件を具えている場合においては反対の意思が明らかでない限り、これを補助参加の申出に転換して適法なものと認めるのが相当であるところ(大判昭和一三年一二月二四日民集一七巻二七一三頁)、控訴人の法律的地位は前記のとおりであるから、控訴人は被控訴人田代、同栗原間の訴訟の結果につき利害関係を有する第三者に該当するものというべきである。従って控訴人の本件参加申出は被控訴人田代に対する補助参加の申出として効力を有するものと認めるべく、控訴人のなした本件控訴は被控訴人田代の補助参加人としてなした控訴として適法であると認めるのが相当である。
そこで進んで被控訴人田代、同栗原間の本訴請求ならびに反訴請求について判断すべきところ、被控訴人田代は昭和四二年九月二八日の口頭弁論期日において「控訴人の参加申出が補助参加としての効力を認められ、控訴人のなした本件控訴が被控訴人田代の補助参加人としてなした控訴と認められる場合においては本件控訴を被参加人として取下げる。」旨の陳述をなしていることは本件記録上明らかである。
従って、被控訴人田代、同栗原間の本件訴訟は被控訴人田代の控訴取下げにより終了したものといわねばならない。
三、よって民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 地京武人 裁判官 菊池信男 中村健)
<以下省略>